本記事のトピックである「THC」は、日本国内において規制されているカンナビノイドですが、本記事は記録及びユーザーの参考資料として掲載しております。
■THCの成り立ち
THC(テトラヒドロカンナビノール)は、大麻草に含まれるカンナビノイドの一種です。カンナビノイドは現在150種類近く確認されており、これまでご紹介しているように、近年にも次々と新しいカンナビノイドが発見されている状況です。あらゆるカンナビノイドの中で、品種にもよりますが最も多く抽出されるのがTHCであり、そのレクリエーション要素から常に注目を集め、最も研究ないし論争の対象になってきたのもTHCでした。THCが世界で初めて発見されたのは1964年。「大麻研究の父」と呼ばれるイスラエルの有機化学者ラファエル・メコーラム(ミシューラム)博士によるものでした。その後1988年にTHCの主な受容体であるCB1が脳内に存在することが明らかになり、さらに1993年にはCB2受容体が発見されました。メコーラム博士と彼のチームは、カンナビノイド受容体を活性化する内因性カンナビノイドの中でも特に代表的な2つの種類を発見しています。主にCB1に作用するアナンダミドと、CB1・CB2いずれにも作用する2-AG(2-アラキドノイルグリセロール)です。これらの発見により、メコーラム博士はヒトや動物が元々持っている身体調整機能であるエンド・カンナビノイド・システム(ECS)の存在を突き止めたのです。
しかし、その成り立ちが解明される遥か昔から、人々が宗教儀式をはじめとするさまざまな場面でTHCのレクリエーション要素の恩恵にあずかってきた歴史があるということは、世界各地に残されている資料によって明らかになっています。
■THCと改正大麻取締法
大麻草は、1万年以上も前から世界各地でさまざまな目的により利用されてきました。日本で最古の使用例は、縄文時代早期の貝塚遺跡から出土した麻縄だと言われています。その後も繊維を衣服や漁網に、実を食用にと幅広い用途で利用され親しまれてきました。しかし、敗戦後GHQの占領下に置かれたことから、1948年の大麻取締法制定以来ずっと大麻の栽培や所持に関して厳しく取り締まられるようになったのです。CBD(カンナビジオール)はTHCと同じく大麻草からの抽出成分でありTHCと並ぶ主要カンナビノイドですが、規制の対象外となります。大麻草の成熟した茎や種子のみから抽出・製造され、かつTHCを含まないCBD製品については、大麻取締法上の「大麻」に該当しないためです。THCとは異なりレクリエーション要素を持たないCBDは、欧米を中心に世界の多くの国で大流行し、日本でも注目を集めるようになりました。一方で、THCは欧米でも限定的な使用しか認めていない地域が多く、アメリカも州によって異なります。レクリエーション目的での使用も含めて大麻を解禁している国は、ウルグアイ、カナダ、メキシコ、マルタ、ルクセンブルクの5か国のみとなっています。また、大麻が解禁され観光客が殺到していると話題のタイについては、実際には医療用と産業用のみの合法化であることは留意しておく必要があるでしょう。12月6日に成立した改正大麻取締法では、大麻草から製造された医薬品の施用(医薬品としての麻薬を身体に投与・服用すること)などを可能とするための規定の整備や、大麻草の部位による規制から成分に着目した規制への見直し、また、大麻の「使用」に対する罰則の導入などが盛り込まれる予定となっています。CBDをはじめとするカンナビノイド製品に残留するTHCの残留限度値を設けることも明記されました。これまで曖昧だった点が明らかになることで、カンナビノイドとカンナビノイドユーザーに対する周囲の理解が深まることが期待できそうです。